[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0164 切り花

 

 ただ生きているだけで時間が過ぎ去ってしまうから、人生とは思いの外便利でもあり、それと同時に儚いものなのかもしれない。以前、花になりたいと書いたけれど、咲くための努力を怠っている時点でその芽が摘まれかけているのかもしれない。それだけのことで消えゆく時間に想いを馳せながら、必要十分な体温を満たして言葉を綴る。

 

 太陽が眩しくて良い天気と形容される日差しの強さが苦手だ。気持ちばかりの曇り空が欲しい。叶うのならば雨が降り注いで欲しいと願う。君の耳元で揺れるピアスと同じように、わたしの心も揺れているよ。今日は少しだけ風が強いね、鼓膜を何往復もするその声をいつまでもリピートしていたい。耳障りの好い言葉と共に、一粒の汗が肌上を伝う。このまま一緒に蒸発してしまえたらいいのにな。

 

 ネガポジ、ネガポジ、現在はそのどちらでもなくて、そんな感覚が草原の上を駆け回っている。まだまだ風が強くなりそうだね。鳥が私の眼前を横切ったと同時に、大切な何かが切り裂かれたような気がした。それでも風に、草原に、意識が向いているわたしがいて、それを読むあなたがいる。楽しい?苦しい?傷つきたくない?そんな疑問詞ばかりが大空を埋め尽くす頃には、もう少しだけ優しくなれているのだろうか。そういう類の夢想ばかりに胸を膨らませながら、この先を歩いていくんだきっと。

 

 楽観的であり楽天的である。眼球を劈くようなありとあらゆる罵詈雑言をいとも簡単に躱していく。そんなこと全部放っておいて今はコーヒーを啜りたい。人が人の形を保つには人で在り続けることが大事でしょう?だから私は、一度辞めかけた人間を取り戻そうとしている。それさえも否定されたりするものだから、色々な部分が乱される訳であって、だったら初めから受け入れなければいいと思った。否定を否定します、暴力的な否定をわたしは拒絶します。そうやって時には煙草なんかをふかしたりして、気長に草原を感じていけばいい。

 

 靴がボロボロになって醜くなった時には、そんなもの脱ぎ捨てて裸足で大地を嚙みしめる。時折みんなのことを思い出し、胸がキュッと痛くなったりして。唯一の愛を空に配りながら、わたしは夢の中で花になりたいと思った。その程度には生きてほしい、時には少しだけ死なせてほしい。寸分の違いもないことなんて有り得ないのだから、いつだって大空の上を歩いていける。気が付いた時には落下していて、地面に叩き付けられ粉々になっているかもしれない。残骸を誰かが拾い集めてくれれば嬉しいけれど、蔑まれ嘲笑されたとしても、それはそれで可笑しくて楽しいのかもしれない。

 

 

 何をしても不幸から逃れることは出来なくて、だからこそ幸福は常に寄り添い合う。