[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0197 失われた涙腺

 

 そこら中を歩いている人がみんな同一人物のように思えて、自分だけがこの街から疎外され浮いているような気がする。きっとそんなものは錯覚で一歩間違えば病気だ。違うね、間違わなくても病気よ。大前提として誤りであることを忘れてはいけない。

 

 吐いた溜息が空を舞って、冷えた空気が私の肌を刺した。何一つ笑えない冗談に対して「それ何が面白いの?」と疑問を投げかけた途端に消え失せた薄気味悪い愛想笑い。くだらねぇよ、そんなもの存在していいはずがないでしょう。それなのに、世界はその冗談だったり下らなさだったりを思考停止で受け入れている。それなのにそれなのにそれなのに、世界は私に「何で笑ってるの?」だなんて問いかけてくるからやってられない。

 

 無意味に笑うことは許されないの?

 わたしはあなたの嘲笑を許さないけれど。

 

 

 油断するとあっという間に流れていく時間と共に、周りにいた人達も消えていく。呼びかけても返答の無い有様が本当に滑稽を表現していて、クスッと小声で笑みがこぼれる。/ 一笑い

 

 ネガティブ感情を文章に落とし込んでいる時間だけが唯一ポジティブになっていて、でもいつまでもこんな暗い文章を書き続けていたら誰も読んでくれなくなりそうだ。それはそれで仕方がないかと割り切れず、弱い私が大きく落胆するだろうし、末永く憂鬱になるだろうな。それでもやっぱり、自分の意に反して明るい文章なんて書けないわ。近い未来のバッドエンドに対して苦虫を嚙み砕いたような表情で抵抗を示す。あれれ、一体わたしは何をしているんだっけ?。/ 二笑い

 

 いつまでもどこまでもウダウダと戯言を吐き続ける自分自身に唾を吐きかける。もう振りまけるだけの笑顔は持ち合わせていなくて、注げるだけの愛情は全て使い果たしてしまった。空っぽの器だなぁと思う。過不足の無い八方美人が、やや不足気味のブスになってしまった。このままどんどんエネルギーが足りなくなっていって、見る見るうちに心や感情が萎んでいって、やせ細った枯れ木が完成するだろう。触れるだけで崩れる程の虚しい造形を”綺麗”と言ってくれる人が一人でもいれば、もう少しだけ耐えられると思うの。逆を言えばそれは、誰かから言葉を与えてもらえないと、生きていけないということだ。その事実が空しくて悲しくて苦しくて、また誰かに寄りかかってしまいそうになる。そんな醜い枯れ木がいつまでも可笑しくて、駄目な自分自身を再認識する。/ 三笑い

 

 

「優しい言葉も、甘い言葉も、もう何も鼓膜に響かなくて」

 

 それ即ち、笑止 。