[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0597 秋と音色

 

 仕事からの帰り道、歩いていると虫の鳴き声。聞き覚えがあるこの音は、きっとコオロギが奏でる音色かしら。こんな都会でさえも力強く生きている、その個体を静かに想う。終わりへ突き進む人類を横目に、君たちは一体なにを考えているのだろうか。人間のことなんてどうでもいいとは思うのだけれど、わたしは君たちの音色を聴いているよ。建前ばかりで塗り固められた都会に、自然の音楽を与えておくれ。生きることに疲れていた人間が、もう少しだけ頑張ろうと思えたんだ。いつまでもこの時間が続けばいいのに、耳を包み込むこの感覚が、いつまでも、ずっといつまでも。