わたしは、世界を思う。
人が人の形を保つ以上は、優しさとか温もりとか一つ屋根の下で行われる暖色的な行為が必要なんだよ。ただ一人きりだったとしても、作品を通して様々な人物に会いにいけばいい。そういう疑似的な行為はその内ボロが出てしまうから、駄目になった時はインターネットを通じて声明を上げる。そうでもしないと人格の形成は不可能であって、ただ呼吸だけを繰り返す高性能ロボットになってしまう。
いつもそうだった、気が付けば夕暮れで空が沈んだ。目を刺す太陽光が憎らしい反面、いなくなるとちょっぴり寂しい気持ちにもなる。夜は一日に終わりを告げる。最後の晩餐、きっとそうなる予感で満たされているのに、平然と明日はやってくる。塵も積もれば山となる、眼前に聳える大きな山を丸ごと爆破できる程度の火薬が欲しい。それを大きな花火だと皆に偽りたい。夜の中に、太陽を浮かべたい。
絶え間なく降る雨が心の表面を濡らす。楽観的な塗装はすべて過去の中へ溶け出してしまった。いつになく心が痛い、身体が冷たい。揶揄された情愛を片手で強く握り締め、その拳で生き辛い世の中をぶん殴る。世界を失神させる程の衝撃を、私は持ち合わせてなどいなかった。殴った反動で拳が砕ける、骨がサラサラと宙を舞う。露わになり縮こまった情愛を、舌で掬い上げ喉へと流し込む。少しだけ、ほんの少しだけ、内臓の中にある温もりを感じた。
夜明け、スマートフォンに着信が入る。消え入る鳴き声をただ傍観することしか出来なかった。頽れるように時が流れる、フローリングを転がる空き缶の音が妙に心地良い。真っ二つに折れたMacBook、象徴の林檎が目まぐるしく点滅を繰り返す。よかった、まだ生きてる。今日を始めようとしている。何もかもなかったことにして、忘れたフリして、また何処か遠くへ行こうとしてる。
それでも、ここに居たことは覚えていたくて。
了