ずっとずっと探していた。家族の温もりや愛情のような無形たち。いつまで経っても見つからなくて、一人絶望に明け暮れていた。日々がわたしを赦してくれなくて、誰かがわたしを忘れていって、記憶のなかで亡骸と化す。そんなありふれた日常が、とっても苦しくて、この人生とやらを投げ出してしまいたかった。いなくなりたかった。
寒空の下を散歩しているなかで、「そういえば最近消えたいと思わなくなった」ということに気が付いた。そういったこと、いなくなることを意識しなくなっている。自死を考えること、想像することも少なくなって、ほとんどなくなって、一体自分はどうしてしまったのだろう。いや、これが正常なのか、これまでが異常だったのか。どうしてあんなにも苦しんで、必死に藻掻いていたのかと不思議に思う。自分は一人きりだなんて決めつけていたのかと、不思議に思う。
下を向いていれば砂利や雑草、舗装されたコンクリートばかりが目に入って、心が乾いていくばかり。時には綺麗な花弁に出会うこともあるけれど、この都会では中々見つからない自然と造形。少し顔を上げれば肺を満たす空気、排気ガス。たくさんの建物、人々の雑踏、広大な青空が広がっている。ずっと顔を上げていれば、石ころや段差につまずいてしまうかもしれなくて、時には下を向くことも大事だった。ただこれまでが、少しばかり長かった。下を向いている時間が、ずっと永遠のように感じられた。
なんとなく、笑いたい気分。心の底から愛したい気分。死にたいと思っていた過去の自分を、ありのまま優しく包み込みたい気分。きっと、少しばかり心が冷えていた。一人で泣く事は終わりにして、わたしと一緒に踊りましょう。苦しくて辛いまま二十代が死んでしまったけれど、この経験はわたしのなかで今も消えずに生きています。わたしは心の弱い人が好きです。その弱さを自覚している人が好き。だって、弱さを知っていなければ、誰かに優しくすることも、手を差し伸べることも出来ないから。経験は誰かを守るための盾になります。自分を包み込むための温かい毛布にもなります。だから、なにもかもが間違っていなかった。これまで、過去。これから、未来。一つの道筋が繋がっている。いまのわたしを抱きしめながら、一人の部屋で、笑ってる。
了