[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0590 冬の通り道

 

 今朝、台所の蛇口を捻ったら、昨日よりも冷たい水が流れ出た。いつもより室内の空気がひんやりしている。途端に懐かしい感覚が蘇る、冬の到来を錯覚させる。秋、特に思い入れがある訳でもなく、すっ飛ばしてしまいたくなる季節。外を歩けば風がいつもより軽やかで、照り付ける日差しだけを夏は置き去りにしていった。休日の香り、過ぎ去った記憶がわたしの肌を覆い隠す。気がつけば秋がやってきて、瞬く間に冬がやってきて、やがて一年を振り返るのだろう。誰かを愛したこと、どうしても愛せなかったこと、愛されたこと。冬はわたしを奪っていく、奪われたわたしは冬を愛する。もうすぐ終わりの季節がやってくるね。何事も前夜が最も幸福なように、わたし、胸が少しだけ温かくなる。逢瀬を夢見る秋の風、さよならの温度を抱きながら。