[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0337 水の中にいる

 

 寒空なんて存在しない、それを感じるあなたの心がそこにあるだけ。皮膚。静脈のうえを孤独が走る、それはそれはものすごい早さでやがて全身を駆け巡る。寒いね、と言うとき人は少なからずナーバスになっている。温めてくれよと隠喩している。人類は遠回りが大好きなんです。だから言葉を発明して、愛とか恋とかを伝えてる。

 

 さよならグッバイ。どこかで聞いた単語が好きだった。それはどこまでいっても青色の世界、季節はちょうど今頃の冬かしら。別れ×別れをすれば出会いになるって、数学の先生言ってなかった? いつまでもなんてあり得ない。ずっと一緒になんてすべてが幻想。じゃあなんでわたしたち出会う? だからこそ出会う、終わりが決まっているからさ、いつ終わってしまうかハラハラドキドキする為に、早く出会ってしまいなさい。そして後悔しないように、いまこの瞬間大切に扱いなさいね。

 

 きみのなかで冬が終わるとき、わたしも一緒に雪と共に死んで、あなたの水分の一部になりたい。だれかの一部分になりたいと願う気持ちを顕微鏡で眺めれば結晶型を成していて、これってほとんど雪とおんなじ。溶けて消えるのも、まったくおんなじ。雪も桜も蝉も紅葉も、わたしたちを置いてけぼりにして死んでいくから、それってつまりは無責任な愛だなと思う。でもなぜか良い匂い、どこか懐かしいばかりのお日様が恋しい。手を繋いで歩くのも、季節を感じるのも、いなくなりたいと思うのも、いつだって寄り添ってくれたのは夜だった。月明りはわたしを慰めてくれた。いてもいいんだって、置いてけぼりは寂しいねって。温もりだけが身体に刻まれていく。寒くなると傷がウズウズと涙を流す。いいね、ここはインスタグラムに存在しない暗い現実。映えないもの、醜いもの、だからこそ美しいもの、わたしはそういうのもっと大事にしたい。たとえ誰もがいなくなって、暗い部屋のなかでわたしだけになって、それでも狂おしいほどに愛でていたい。そうこうしてるうちに冬が死んで、水分になって、あなたの一部になって、結晶。