[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0338 あまいゆめ

 

 夢に浮かんでいる鮮やかな過去に首を絞められ、ハッと目を覚ますアラームが鳴る5秒前。まだまだ窓の外は暗闇のままで、なんだかちょっぴり寂しい気分。お元気ですか? なんだかんだで生きています。失った色んな人たちと夢の中で話してた、そもそも手に入れられないこと、気づけばみんな空のなかに消えていった。いかんせん忘れられんのです。記憶というのは思っているよりも厄介で、だからこそ出会った人のこと覚えていられて、たとえばわたしが死んだその後もこの記憶だけが引き継ぎされる。そんな気がするだけで、そんな気がするだけなのだった。

 

 最悪も最高も目覚めることには変わらなくて、それは夢からの脱却で現実に到着。ずっと眠っていたいわよ、なんて夢みたいなこと言ってみたい。死後も夢を見るのだろうか、その中では思い通りに生きられるんだろうか。死んだばあちゃんに聞いても、じいちゃんに聞いても、いつまでもなにも教えてくれない。夢に声は届かない。夢に香りは存在しない。悲しいね、少しずつまぶたが落ちてくる。上と下がくっついた時、不眠症さえも夢に向かって。

 

 ひとりで眠るのが怖かった、幼児。電気を消せば真っ暗だから、目を閉じれば全部なくなるから、わたしだけが一人だけでポツン。おかあさんといっしょ、いつから見なくなったんだろう。みんなみんな優しかったのに、どうして一人きりだなんて騒ぎ立てた。言葉に魂がのっかって、ほんとに一人になっちゃった。ポツン。繋いでいた手のひらのこと、わたしはなんにも思い出せない。抱きしめられていた小さな身体、それが自分だなんてずっとこれからも信じられない。ゆがめばゆがむほど真っ直ぐになって、もうわたし、立派に一人で歩いていける。くじけそうなとき、泣きたいとき、いなくなりたいとき、そんなのたくさんあるけれど、「くじけて泣きながらいなくなってやる!」なんて開き直って、クスクスまるで馬鹿みたいね。そんなおバカがお気に入り、だからきっと大丈夫、わたしはこのままで大丈夫。すこし眠くなってきたね、アラームも体温も全部なげだして、ほうりだして、海の底深い部分で眠っていたい。だれにもみつからないように、目が覚めることがないように。