[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0330 真っ赤なお手々

 



 この時期になると色んなひとから指摘されるんだけど、手が真っ赤に染まる。出血ではなく、肌が赤くなる。「どうしたの?」「大丈夫?」「痛そう......」などなど心配の声をいただくのだけれど、これがまったくなにも痛くないのだ。掴む、繋ぐ、触れる、離す、手としての役割を全うするには何ら問題はなかった。しかし、その視覚的痛々しさを自覚している部分もあって、何とかならないものかと悩んでいる。

 

 考え得る仮説として、それはもう圧倒的に手が冷えているから「ヤバいヤバい、体温上げるで!」と血液が手に集中、結果的に真っ赤になるのではないか。それならば、ずっと手袋をしていればいいかと考えるものの、感覚が鈍るという点において、自分はあまり手袋が好きではなかった。洗い物も、掃除も、日常生活も、出来ることなら素手で取り組みたいものです。

 

 そしてもう一つ、手の洗い過ぎによる炎症。何年前からこうなったのかはわからないけど、もうずっと過剰な手洗いを続けてきた。コロナ渦に入る前から、ずっと。昔に比べれば大分マシにはなったけど、それでも一般的な洗浄回数に比べれば幾分多いと思う。そんなに手が汚れている訳じゃないのに、頭の中で「洗え」とざわめくなにかがある。まぁそんなわけで、必要以上に皮膚の常在菌とやらを抹殺しまくった結果、手の表面が脆くなっているんじゃないかという考察。でもでも、炎症なら痛みを伴ったりプツプツと出来物がこんにちはしたりするんじゃないかなぁ...... 結局のところ、素人のあたまでいくら考えたところでフワフワとした仮説しか生み出されなかった。過去に一度、皮膚科で先生に診てもらったんだけど、「赤くなる原因は不明、正常です」みたいなこと言われたような気がする。記憶の改竄かもしれないけれど、それが本当に言われたことならもうどうしようもないね。

 

 いまの時期、普通に手を洗うだけでもめっちゃ冷たくないですか? だからといってお湯で洗っても乾燥するし諦めて冷水で洗うのだけれど、やっぱり冷たい。この冷感こそが「冬」を表しているようでむしろ好ましく思っているのだけれど、手にとって皮膚にとっては、あまりよろしくないですよね。[過剰な洗浄により常在菌が死滅→冷水による体温低下→お手々が真っ赤っ赤] やはりこの説が濃厚な気がする。それとは別に乾燥して赤ギレやささくれが発生するから、この季節にはもう見るに堪えないビジュアルが誕生する。

 

 これまでの人生を思い返して、唯一褒められてきた身体のパーツが手だった。本当にこれでもかというくらいに唯一。いくら過去を探索してもそれ以外の箇所を褒められたことない。書きながら悲しくなってきた。しかしながら、手だけはやたらと言及されるのでした。手を過剰に洗うようになってから、褒めてもらえる回数は減ったけれど、それでもたまにお言葉頂戴するのでした。嬉しい。でも、冬になるとあまり言われなくなる。なんせ、だれがどう見てもサングラスをしていても真っ赤っ赤だからね。逆を言えばただ赤いだけなのに、どうしてこうも痛々しく映るのだろう。人間の脳で見るイメージ、不思議だ。

 

 少し前にそのことを思い出しました。そういえば、わたし、手、褒められてきたやん。これが無くなったら、わたし、もう褒められることなくなる。これまでぞんざいに扱ってごめん、お手々。大事にしてあげよう、お手々。そんな訳で色々調べたところ、やはり大事なのは「ハンドクリーム等での保湿」そして「必要以上に手洗いをしない」要約するとこの二点が重要とのこと。そんなもん、調べる前からわかってる...... なんだか悔しさが込み上げつつも、やはり当たり前のことを大事にしなければならないのだな、美というやつは。ハンドクリーム、ベタつかないと評判のものでも塗るとやっぱりベタつくし、お手洗いに行ってすぐに洗い流してしまうし、あんまり好きになれないんだよな。先ずは手洗いの回数を減らすこと、やっぱりどうしても完全なる清潔は存在しないから、洗っても洗わんくても、そんなに変わらんのかもしれん。きっとそうなのかもしれん。

 

 それはもう真剣な眼差しで手のケア方法と睨めっこしていたら、ほわんほわんと過去の記憶が浮かび上がる。それは9歳の頃合い、肌が弱かった当時のわたしは、冬になると手が赤ギレだらけになっていた。その時は手洗いとかそんなしてなかったのだけど(それはそれでどうなのかと思う)、本当に一切の誇張抜きで手が血だらけだった。幼いわたしは自分でもどうしていいかわからず、教室の備品であった絆創膏をとにかく貼り付けまくった。マジで手だけミイラみたい、血が止まらないし、なぜか担任の先生にキレていた憶えがある(本当にごめんなさい)。その姿を見かねた母が、寝る前にユースキンのハンドクリームを塗ってくれたこと、その上から手袋をして眠っていたことを思い出した。そして、「手を洗ったあとは必ずこれで拭くんやで」とふわっふわのタオルハンカチを毎日持たせてくれた。その言いつけをきっちり守り、寝る前はハンドクリームを塗り手袋をして眠り、気が付いたときには綺麗さっぱり赤ギレがなくなっていた。逆転してモチモチお手々になっていた。マジか、どうして今まで忘れていたんだろう。あの時は本当に優しかったよなぁ。大人になった現在でも毎日ハンカチを持ち歩いているのは、その時の温もりをずっと引きずっているからなのかもしれない。

 

 夜の集中保湿型ハンドクリームを購入した。よい感じの手袋を購入した。眠るまえに塗り塗り、手袋をサッとはめこみおやすみなさい。翌朝、手袋を外すと重厚モッチリ少しのべたつき。手を洗えばサラ艶お手々。おかげさまでこの冬は、ほとんど赤ギレが発生していない。相変わらず手は赤いままだけど、調子が良い時には割りと綺麗に映ることもある。唯一の魅力、それだけが本当に魅力? あとは色味が元通りになれば満点だけど、何事もそう上手くいくはずはなく、わたしの手、今日も真っ赤に染まってる。