[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0200 生きろだなんて言わないで

 

「何やってるんやろ、自分」

 

 唐突に爆発する群青色を施した虚無。最早この感覚にも慣れっこだから、時間が解決してくれることは理解している。いや、解決というよりもただ忘却しているだけだ。それでも考えないことが一番の現実逃避になるのだから、世の中はシンプルでそれ故に生き辛さが身体中を支配している。

 

 顔も声も香りも知らない、そんな方からお褒めの言葉をいただいた。唯一わたしが知っているのは、その方が紡ぐ”言葉”のみであって、それ以上はもう何もいらなかった。他人以上知人未満、四捨五入すれば私は他人へとカテゴライズされてしまうだろう。だからこそ嬉しかった、お褒めの言葉でさえ文体が美しかった。羨ましい、時にはその表現力に嫉妬してしまう。望ましい、こうなりたいと憧れる瞬間もある。理路整然とした呪言をインターネットにまき散らしていて良かった、書き続けていて良かったよ。

 

 誰かから褒められる度に浮かれてしまい、幾度となく繰り返す酒三昧。

 

 大人になると褒めてもらえなくなる、ある程度のことは出来て当然かのように世間は評価する。だから自分が何をしても、他人に人様に期待することは止めた。期待を下回った時にはとても悲しくなるから、その場に立っているだけで、精一杯になってしまうから。

 そうやって物分かりが良くなるにつれて大切な何かを次々と喪失していく気がする。大人になるって、たくさんの物を失うことなのか?。まとまった資産を得る代わりに、時間を、愛情を、自分自身を、忘れていくことが大人なのか?。ふざけるな、ふざけるんじゃない、ふざけんな。そこまで物分かりが良くなった暁には、本当の私は一体どこで泣いているの?。

 

 そのような毒を日々頭の中で循環させている、それでも尚期待を止めようとしている私に、予測不可能な一言が刺さる。最近は褒められることが皆無だったから、急に褒められるとどうしていいのかわからなくなる。物凄く嬉しくて、この一言を大事に抱えて、しばらくの間生きていけるんじゃないかと錯覚する、錯覚する、錯覚する?。そして気が付けば酒を喉に流し込んでいて、いつの間にか眠っている。

 

「あー、気持ち悪い」

 

 どうせなら気持ち良く目覚めたかった。目覚めと同時に確信を得る、全ては錯覚に過ぎなかったのだと。既にこの先を生きていける気がしない、何もかもを心から削がれている。今日も律儀に地球は回り続けていて、その上で馬鹿みたいに踊り続ける自分自身が可笑しくて。「何やってんやろ」と考えていたら一日が終わっていた。

 

 

 けれども、受け取った言葉だけは変わらずそこにいてくれて、まるでそよ風が肌の上を撫で付けたかのようにわたしは安堵する。それだけでいい、それ以上は何も必要なかった。今日も相変わらずの生き辛さで、いなくなることばかりを考えていて、因数分解の果てに消滅することを願っている。

 

 それでもね、「死にたい」とは常々思っていても、「僕なんか生きてる価値無い」とは思わなくなったよ。読んでくれるあなた達が、言葉を届けてくれるあなたが、わたしに価値を与えてくれたから。