[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0219 夕暮れに焼かれて

 

 夕暮れ時、友人と並んで歩いていた

 

 

 空が明るみを沈める頃合い、視界の右端が赤く染まる。

 

「見て見て、雲が真っ赤や」

 

「ほんまやなぁ、綺麗」

 

「今日限りで世界が終わるような色してるな」

 

「終わらん終わらん 笑」

 「けどさ、もしほんまに世界が終わるんやったとしても、別にそれでもいいかもなぁ」

 

「明日仕事いかんでもええもんな」

 

 血のような夕暮れが友人の横顔に影を落とし込んでいた。歩みを並べる一定速度が、何の意味も成さない会話が、心地良かった。

 

 歩いている時には、わたしはそう思っていた。世界の終わりを願っていた。この世の中には不穏ばかりが満ちている。彼方此方に散らばる暴力性に嫌気が差しながらもわたし達は生きている。世界そのものが終わりを迎えれば、不穏も安心も愛情も憎しみも平和も戦争も、わたしもあなたもあんたもお前も、何もかも全ての概念が消失する。そういうことを時々考えるのだけれど、そんな時のわたしは、一人だけでいなくなることを恐れているのかもしれない。『赤信号、みんなで渡れば怖くない』の法則で、"世界が終わればみんな死ぬしかない"という謎の安堵を得たいだけの臆病者なのだ。

 

 それでも私たちは明日に向かって歩いていて、未来での再会を約束している。『もしも世界が終わるのなら』そんなことを話していても、目が覚めればいつも通り満員電車に揺られていて、いつも通りの時間にタイムカードをピッとしている。

 

 

 何かを始めるよりも、何かを終わらせることばかり考えてしまうのは何故なのだろう。それでもわたしは、この関係性だけは終わってほしくないと、秘め事のように願うのです。