[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0276 冷たい吐息

 

 少しずつ、という表現が許されないぐらい一気に寒くなっちゃって、心の中がウキウキとしている。身体が冷える感覚が好きだ、だからわたしは冬が大好きだ。冬になると鬱の発症率が大幅に上がる。それは体温が精神安定に大きく影響しているからで、例えば温かい飲み物をゆっくり時間をかけていただけば、心が幾らかホッとする。逆に身体が冷えることによって人間は縮こまり前傾姿勢になってしまう。それに応じて呼吸が浅くなり、結果的に血流も悪くなる。血流が悪くなると自律神経が乱れがちになり、身体全体のパフォーマンスが落ちる。身体と精神は繋がっているから、冷えによって精神の土台が崩れやすい状態になる。だから、冬の間は温かい服装をして、温かい部屋で、温かい食べ物や飲み物を取り入れながら自分を労わってあげてほしい。

 

 精神が落下したとしても、それでもわたしは冬が好きだ。だからなるべく寒さを味わいたくて、冬になると外に出たくなる。何となくぼんやり頭に浮かぶ思い出というのは、冬であったことが多い。夏が終わり、秋が消え、肌の上がほんのり冷たくなるのと同時に、色々なことを思い出す。基本的に過去を振り返ることは好ましく思っていないのだけれど、自分の意思とは関係無しに情景が流れ続ける。寒さの中で抱き合った温もり、一人で飲んだくれた帰り道、星空と流血、流れるように巻かれたマフラーの手触り。色んな過去がわたしの心になにかを訴えかけている。嬉しい、懐かしい、よりも悲しい。この世界に一人ぼっちで取り残されたような、どうしようもない感覚を愛している。

 

 わたしは冬こそ出会いの季節だと思っている。寒さの中で巡り合った体温同士が、夜の中で暖を取る。誰かと話したくなる、そんな夜が多くなる。人肌が恋しいというやつでしょうか? それも人間らしくていいよなと思える。今年はどんな出会いが待っているのだろうか、誰といつどこで何をしながら星を見つけるのだろうか。大抵の場合それは、居酒屋で酒を飲んだ帰り道のような、ふと寂しくなる瞬間だったりする。そんな時、会いたいと思った人に会いにいきたい。寒さの中をかき分けて、温もりを求めて生きていたい。どれほどの温もりも、必ず過去になり思い出として綴られる。だからわたしは、冬が好きだ。このどうしようもない寂しさが、大好きだ。