[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0312 カラスが鳴く

 

 夜と朝の中間に、カラスの鳴き声で目が覚めた。外はこんなにも冷えているのに、彼らは一生懸命に鳴いている。美しい羽毛に包まれているから、寒くはないのだろうか。もし少しでも寒さを感じたならば、体温は身を寄せ合うことで解決する

 

 屋根のある家で眠ること、雨風が凌げること、温かいこと。たったそれだけのことが幸せなのに、わたし達はいつの間にか忘れてしまう。いまよりも幸福な安らぎを、未来の中でばかり求めている。寂しいね、それはいまが見えていない。明日のことなんてなに一つ考えなくてよかったのに。生きるため、生きるためと言い訳しながら、日々を少しずつ捨てている

 

 巣立ち、もう一人で生きていけるって。そうしていなくなった身から出た錆は、きっとわたしのことを忘れてしまう。君が生きていてくれればそれでいい、なんて鮮やかなこと思えない。ちゃんとわたしに返してほしかった。分け合った温もりを、注いだ愛情を、正しい分量でわたしに返してほしかったのに。そう願うこと、そう祈ることで、いつまでも君に傷つけられている

 

 孤独を幸福で上塗りできればよかった。ずっとずっと、暗い顔をしてそこにいる。体育座りが得意になった。日の光が苦手になった。寒さはなにも感じなくなった。だからわたしは、この身体を真っ黒に染める。誰からも見つからないように、ソッと静かに過ごせるように。それでもあなただけは、かならずどこかで見つけてくれる。そう信じることを、最後まで諦めることができなかった。正しい分量を見つけることは、わたしには、とても難しいことだった

 

 生きていてくれればそれでいい

 

 どこまでも続く夜のなかで

 カラスが一羽、泣いていた