[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0165 哀歌

 

 平然と嘘をつくようになった頃から私はわたしとして存在していて、雲は通り過ぎ広い大空が世界を覆い尽くしていた。

 

 罪悪感に駆られる必要も、苛まれることにも慣れてしまって最早何にも感じない。「今からわたしは嘘を吐きます」そう宣言してから行う不道徳をアルコールで少しだけ緩和する。大丈夫、それでも世界は回り続ける。そうして奏でられるエンドロールを脳に響かせたい。いつまでもいつまでもいつまでも、いつまで経っても終わらせないように。

 

 積み木を幾つも重ねた果てに待ち受けるは崩壊のみで、その事実が何よりも私を安心させる。いつかは終わってしまう、それはとても些細なことで。それなのに積み上げることを願う人達は心が柔らかい形状をしているのだろうか。それとも、とても厳しい表情を浮かべていたりして。「優しい人になりなさい」と言った母が優しい人間にはなれなかったように、必ずしも言動が一致するとは限らない。だからこそわたし達は噓を吐く。程度の差はあれど、そうやって世界を構築しているんだ。

 

 錆びれた言葉たちを修繕する為に豊かな書物に触れるべきだよ。放っておけば、私たちの言葉は次々に枯れてしまう。水をやることも油を差すことも怠ってはいけない。少し目を離した隙に花壇が全て虚偽で埋め尽くされていたりする。恐ろしいよね、無知の知。そんな当たり前のことを忘却させる、薄い板切れが人類を支配しようとしている。どうやらここも錆び臭くなってきた。潤滑油を求める旅路が走馬灯の中に浮かび上がり、それさえも虚偽であったことを自覚する。

 

 エンドロールの上からワインを注げば、少しは色鮮やかになれたかしら。いつまでも踊り続けることが出来たかしら。ワインは決して高価な物でなくても構わない、だって噓偽りってそういうものだから。その中に飛び切りの真実を混ぜ込んで、世界に彩りをまき散らしていきたい。モノクロームはつまらない。目を刺すような色彩を、わたしは求めているのです。