[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0175 唇の裂け目

 

 

 よくもまぁこれほどまでに長々と喋り続けられるものだ。そう思いながら横目で一瞥するのは私。群れを成す人間達に感心すると同時に、少しばかりの嫌悪が湧き出る。

 

 軽蔑の眼差しや羨望の眼差し、どんな目で彼彼女達が繰り広げる劇場を眺めていたのかは定かでないけれど、一つ言えるのはわたしには話し相手がいなかったということ。「それってただの嫉妬じゃない」なんて言われてしまうと、今以上に言葉を失ってしまうからやめてほしい。

 

 ひとりで考えることは楽しい。それでもやっぱり二人で考えたいときもあって、そんな時に限って自分以外のもう一人が見つからなかったりする。そもそも、自分から見つけようとしないこともあるし、その癖話し相手がいない現状に絶望したりする。

 

 最近とても冷えること、心がどこまでも沈んでいくこと、生きること、それがとても辛いこと、そんな他愛もない心の内を現実に露呈してしまいたい。あなたが雨の中で泣いているならば、何も言わずに傘の半分を預けたい。求めれば求めるほどに消えてしまうのが人間だから、わたしの周りには話せる温度が存在していないのかもしれない。

 

 話しの内容はなんだっていいんだ。会話に生産性を求めると関係性が破綻してしまう。会話はすべて言葉遊びだからこそ、いつまでも続く喜劇であればいいと思っている。一人芝居にはもう飽き飽きとしていて、どこかに好みの役者はいないものかと他人事の様に世界を見渡している。

 

 

 

 相手の話す内容がとても可笑しくて、思わず大きく笑った瞬間に唇の端が裂けた。それから自分の意見を述べようとしたら、もっと大きく裂けた。笑うなという、喋るなという、世界からの暗示かしら。ロックグラスに付いた僅かな血液を親指で拭いながら、いとも簡単にわたしは消沈していることに気がつく。それでもわたしは意を決して、世界への抵抗を露出した。もっと裂けて、血だらけになれ私の唇。そんな哀れなわたしの姿を見て、少しでも笑ってもらえたならば、それだけで全てが救われる気がするのです。

 

 

 

 笑え。