[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0196 僅かながらの優しさを

 

 心が不安定になる時期がやってきた。起きている間は全てに失敗して敗北を味わう。だからとりあえずたくさん眠ることにした。誰にも迷惑をかけないように独りでいることに努めた。そんな最低限の努力は他人の目には映らなくて、その事実に私は安堵する。不安定な私自身も、誰にも悟られていなければいいのだけれど。

 

 アルコールが足りていないと脳が叫ぶ。やっぱり朝日をツマミに流し込むお酒は最高で、下品な味わいが体内に広がっていく。酩酊状態で家の中に居ると、まるで冬の気温など存在しなかったかのように感じる。エアコンで整えられた室内の温度は、とても温かい。それでも拭い消えれない空虚さに耐えきれなくて、人間を抱きしめたいと人肌を求める。

 

 ここまで来れば、立派な獣だ。不都合な事実から目を背けるようにして、己の欲求に従い今日を生きている。世界からわたし一匹が消失しても寸分の問題も生じないことは確定しているのに、必死に今日という一日にしがみついている。何してんだよ、お前。もう何もかも諦めてしまえばいいのに、生きることも、楽に死のうと考えることも。

 

 それでもこうやって机に向かってキーボードを叩いていて、その間も幾度と呼吸を繰り返して、もう何もしたくないわと自暴自棄になっている。そんなこと言いながら明日になれば通勤電車に揺られていて、会社でヘラヘラと笑っていて、帰宅して泥のように眠っていて。そんな明け透けな未来がおぞましい、予測可能な自分に対してシンプルに吐き気を催す。なんか楽しいことないかな、楽しいであろうことを素直に”楽しい”と感じられる直感が、私の中では圧倒的に欠落しているのかもしれない。

 

 「毎日、楽しいって感じてる?」

 

 「楽しい訳ないやろ、何ならこの瞬間今すぐにでも消えたい」

 

 「そうなんや、私からは楽しそうに見えるけどね」

 

 そんな感じで、私はどこまでもピエロなのかもしれない。他人から憂鬱を悟られないように、必死に日常を演じている。時には都合の良い人間を演じてみたり、時には悪態をついてみたり。誰にも本音を言えなくて辛かった、どこにいっても居場所を感じられなくて虚しかった。だからこうやって無意味に言葉を紡いでいるのだろうか。誰かに届けたいという思いよりも、弱い自分自身の為に書いている部分が多くを占めている。醜悪な自己満足、一種のマスターベーションのように感じられるかもしれないけれど、その感受性を否定することは私には出来ない。

 

 いつまでこの生活が続くのだろうか、あと何百何千何万回眠れば終わりを迎えるのか。わからないから面白い、よりも苦しみが圧倒的勝利を収めている。もっと楽に生きたいと願うことも、心の安寧を求めることにも、もう疲れてしまった。現在以上に年月を重ねることが憚られる。あらゆる類の恐怖感情が膨らんで、もっと膨らんで、はち切れんばかりに膨らんで、わたしの中で爆発してしまえばいいのに。そうやって、誰も知らない間に、居なくなればいいのに。

 

 

 滑稽だね、滑稽でしょう、滑稽なのだと思います。