[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0309 誰もいない帰り道

 

 最近、誰かと別れたあとの帰り道がとても悲しい。

 

 寂しいとか虚しいとか、そういう次元ではなくて、もはや自分の中身が完全に空っぽになるというか、宙に浮いたままの感情がわたし自身を見下している。嗚呼、早く一人の空間に閉じこもりたいとは思うのだけれど、なんだか家に帰ることが恐ろしくて、意味もなくBARに寄り道したり、また別の知人と合流したりする。帰り道の先送りばかりで、いつも現実逃避をしてしまう。

 

 希死念慮にボコボコに殴られる感覚、痛い。そうやっていつもわたしは、自分で自分の首を優しく絞めているのだった。やさしいひとに、なりたい。自分にも相手にも、優しくなれる人間に、わたしはなりたい。

 

 楽しくなればなるほどに酒が進み、ある臨界点を迎えた時点で記憶がどこかへさらりと消える。帰り道の記憶がないことが多々あって、目覚めた時にはいつもベッドの上にワープしている。そういう時は自分の行動が恐ろしくなるのだけれど、一方で幸せなのでもあった。帰り道の記憶が、全くない。先送りしてまで逃れたい恐怖をすっ飛ばして明日を迎えられるなんて、お得感満載の人生。ぜんぶ、忘れたいから、忘れ去られたいから、いつも深酒をしてしまうのかもしれない。

 

 一つひとつ、丁寧に心をポキリ折る。空っぽの帰り道には一体なにを詰め込めばよかったのだろうか。夢か、希望か、はたまた絶望か? 今日で全てが終わってしまえばよかったのに。せめて、なにもかもを忘れてしまえれば幸せだった。海のなかで溺れている。浮き上がる身体、それを拒絶する心だけが沈んでいく。笑ってろ、せめて帰り道のなかだけは、笑っていておくれ。自分を否定しないで、世界を憎まないで、なにもかもを受け容れて。そこにある表情だけが理由も答えずに笑ってる。それで心が壊れてしまったとしても、帰り道に踊ることが好きだった。このままどこかへ消えてしまいたい。だれも知らない場所へ、だれもいない場所へ、わたしのいない場所へ。