[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0362 壊れたおもちゃ箱

 

 次々と思い浮かぶもの手にとっては辺りに投げ出して繰り返し、余計な玩具であふれている空っぽの部屋。いつか片付けようと思う事は、それを思わない事とほとんど同じで、心にとどまらない、そんなことばかりでまたすこし冷静を失くして。それを入れるはずの、綺麗に納めるはずの、あの日のおもちゃ箱がどこにも見当たらない。あぁ、駄目だ、もう上手く片付けることができないや。こんなことも出来ない自分に嫌気がさした、これまで何をして生きてきた、汚いものが空気的で、わたしの肺を浸食している。

 

 美しさとは、アートとは、芸術とは、一体なにが基準になっているのか。いまの頭ではわからない、美学が上手にまとまらない。沈黙のなかでただ待つように考える。わたしのこと、あなたのこと、他人のこと、世界のこと。物質主義、資本主義、民主主義、煌びやかもの、中身が伴わないもの、生物学、生き方、即ち人生。みんな、どんなことを考えて、今日一日を生きているのでしょうか。なにも考えてない人、考えすぎて潰れそうな人、適度に考えてる人、いまが楽しくてたまらない人。色々なひとがいて、その色々のなかにわたしは存在していて、埋もれて、溺れて、いてもいなくても変わらない、でも、いることによって何かを変えようと苦しむ生き様。それは世界の流れとは逆方向、己を信じて進め、だれもいなくなって喪失。余計なものばかりが頭に入ってくる、余計なものばかりが周囲に散らばっている、豊かなはずなのに、恵まれているはずなのに、どうしてこんなにも虚しくて、悲しいんだろうか。これっぽちも美しくない、絵にならない心情がただ空虚で悔しかった。

 

 海が綺麗で肌寒くて、海岸を打ち付ける波が手招きしているように思えた。もうなにも考えたくなくて、綺麗に壊れることばかりを思い描く。美しさ、海、わたし、冬、赤いマフラー。ある瞬間、周囲に散らばるたくさんの玩具を、大波が無表情でさらっていった。母なる海が、わたしに生きろと言っている。おもちゃ箱を作ろう、美しいおもちゃ箱を創作しよう。あの日の箱はもう見つからないけど、だからこそ、いまのわたしには、僕には、美しい箱が必要だった。いらないものは全部捨てる、必要のないものは切り捨てる。シンプルで、美しい箱がわたしには必要なのだった。もう迷うことがないように、わたしが気楽でいられるように、もう少しだけ、笑って生きていられるように。