[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0503 傘

 

 傘と雨の触れ合う音が好きだった。雨の日はいつもとは異なる雰囲気を世界が纏っている。みんなどこか憂鬱で、湿った衣服が窮屈そうだ。結局のところ、傘をさしても濡れてしまう部分があって、それはどうしても仕方がないこと。「心に傘を」といったキャッチフレーズのポスターが駅の掲示板に貼られていたけれど、それって一体どういう意味なんだろうか。心を温めたり、包み込んだりすることは表現として想像に容易いけど、傘って。心に雨が降っている人もいれば、日光が降り注ぐ人もいて、ずっとずっと降り続いている、そんな人が濡れない為に傘を差しだす。もしくは、わたし自身があなたの傘になる。実用的なのは単なる傘のほうだけど、わたし自身とはお話しができますよ。濡れながらも屋根のある場所に移動して、それはそれは長いお喋りをしてはみませんか? 止まない雨はない、なんて言葉いつまで経っても信じられない。ただ悲観のなかを生き行くだけ。その気持ち、とっても深くわかるのです。安直な共感なんかじゃなくって、痛いほどその気持ちが突き刺さってくる。だからわたし達、似た者同士で、終わらない雨を眺めてみませんか? わたしはあなたの傘になって、あなたもわたしの傘になる。「これって一種の相合傘かしら」なんて馬鹿げたこと言いながらさ、降る雨のことを一緒に見上げていたいね。