[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0378 意気揚々と、雨

 

 雨降りの夜明けが美しく、朝一番から気分が整理されている。ずっと、こんな清々しい気持ちで生きていられればいいのに、願うことはいつだって簡単だった。屋根がある家で眠れてよかった、同時に家なき子の表情を想う。宇宙からすればちっぽけな存在のわたしたちも、地球という惑星のうえで立派に生活していて、自然の流れにもある程度順応している。わたしが雨のこと、好きだと思っているこの瞬間、整った環境のなかにいるからそう思えるのであって、これが、屋根がなくなった瞬間、傘が壊れて役立たずの針金になった瞬間、靴のなかがビショビショになった瞬間、どうしようもなく雨のこと憎くなるだろうね。そこに美しさなんてこれっぽちもありはしない。だからこそ雨は、当たり前として享受しているものを正しい重量で思知らしめてくれる。ハイスペックなスマートフォンを片手に握りしめても、雨風を凌ぐことはできない。ハイカラなブランドスーツに身を包んでも、雨のなかではただ無力で雑菌だけが繁殖する。必要なのは雨傘と屋根のある家、ただそれだけなのに、それさえあれば雨が美しいと思えたのに、関係のないもの、必要のないものばかりに大切な時間を費やしている。もうそういうのはやめにしませんか、世界。外では雨が降っていて、一つの傘があって、二人で身を寄せ合って、肩がほんのりと濡れている。そういう光景がまだ世の中にはたくさん残っている。温かい家に帰ることができれば、ただそれだけで、雨は充分に美しさを取り戻すだろう。窓ガラスに映り込んだわたしが泣いているように見えた、このままずっと降り続ければいいのに、そうすれば、涙は姿を現さないのに。温かい屋根の下で、世界に存在していることだけを感じながら、泣いた。