[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0528 静謐

 

「一人で静かに生きること」

 

 自分自身を知るためには、一人の時間が必要不可欠みたい。そんなこと全然知らなかった過去とわたしは、馬鹿みたいに愛情ばかりを求めていたね。一人でいることが怖かったのは、本当はなにも知りたくなかったのだと思う。表面ばかりいい風に取り繕って、内側で泣いてる子供のことは見ないフリ。そんな生活を何年も重ねていれば、そりゃあ人格も白旗を振ってしまう。

 

 朝、小鳥の囀で目が覚める。最近この辺りに住み着いているみたいで、何という種類の鳥かはわからないけど、音色がとっても美しい。わからないことだけがわかる、そんな状態はどこにでも散見される。少し時間が経つと鳴き始める蝉、それに覆いかぶさるようにカラスの咆哮。都会の中にいるけれど、何となく森を近くに感じるような、そんな一日が好きだった。たくさんの自然が聴こえるようになったのはここ最近のことなんだけど、それは周囲や環境が変わったからなのではなく、自分が少しだけ変わったからなのかもしれない。

 

 行く先は静かにひっそりと暮らしたい。そこに誰かと一緒にいるイメージは作り得なくて、思い浮かぶ情景はいつだって一人である。孤独感とか、なんやらかんやら言ってるけど、結局は自分と向き合いたい思いが強いのか。誰にも気づかれないまま、こっそりといなくなりたい。この世から消えた後も、誰かにそれを知られたくない。わたしは、わたしとしての生命を、自分自身の手で完結させたい。鏡に映る大人の姿を眺めながら、そんなことを考えていた。

 

「愛されたい」という感情を紐解けばそれは「見つけてほしい」になる。「見つけてほしい」を紐解けば、そこには誰一人として存在しなかった。きっと、自分に見てもらいたかった。もっとちゃんと、本当の僕を感じてほしかった。これまで散々、心も身体も傷つけてきたけれど、必ずしもそれは悪いことではなかった。「痛み」のなかには自分を感じる瞬間が、僅かながらに含まれているから。痛みを感じている間だけは、わたしと世界が繋がっている感覚がある。その感覚を少しでも多く味わうために、右も左もわからないまま、自分に釘を刺し続けた。苦しかった、ずっとずっと痛かった。ここで綺麗さっぱり終わりにすることは難しいけれど、今度はこちらからあなたのことを探しにいくよ。すぐに触れ合うことは叶わないかもしれないけれど、少しずつ、ほんの少しずつでも会話を積み上げていければと思う。わたしとあなたを繋ぐたった一つの痛み、ギュッと握ったその指を、もう少しだけ緩めてみませんか?。