[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0166 百合に包まれて

 

 優しい女の人が好きで、優しくない女の人が嫌いだ。いつも名ばかりの優しさを手探りで手繰り寄せ、果てには勝手に裏切られたと被害者の能面を心に施す。どうしても愛情の恩恵を受け取りたかった。いくら泣こうとしても涙が出ないこの悲しみを、温もりで埋めてしまいたかった。まだ足りない、まだまだ充実していない。満足の二文字を忘却した頃合いで、細やかな精神がオルゴールと共に瓦解した。

 

 異性としての愛情を求めていた訳ではなかった。ただそこに投影されたあるがままの母性を自分の心中に収めたかっただけなのだと思う。[母性=女性=優しさ]、馬鹿みたいに歪な方程式が脳内を支配していて、その白痴的プログラムにただ従い続けた。そうすることで救われると思っていたし、実際救われたように錯覚もしていた。

 

 抱き合っても何も変わらない世の中や風通しの良い心の空白の上でポツンと佇む一人の赤子が発した「死にたい」という戯言が世界中に響き渡る時、白百合で覆いつくされた大地の上では一体誰が眠っているのだろう?。安楽を希望するその根底には圧倒的に欠落した母性の受容体が微笑んでいて、何度だってごめんなさいを繰り返している。それでもまだ”生きろ”だなんて安っぽい空言をドブのように延々と吐き続けるというの?。

 

 使われない母性ならば、少しばかりの恵みが欲しい。花言葉を必要以上に咀嚼してから飲み込めば、少しは恵みに近づくことが出来るのかな。認めない認めたくない認められるはずがない。それでも何も持ち合わせない空虚な心臓を、柔らかく包み込んでくれるヴェールが欲しい。束の間の愛情をわたしに錯覚させてほしい、君の名で脳の記憶領域を埋めてほしい、用が済んだらずっと側で眠らせてほしい。気がつかないほどに小さな願望達が列を成し、遥かに大きな存在となって全身を埋め尽くす。そこにあるのは痛みだけで、依然として涙は流れないままでいる。

 

 

 「愛されたいと、願うことさえも」