[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0177 「ねぇ、鬱なの?」

 

 普段なら話さないような内容を思わず話してしまって、大きく後悔する夜がある。

 

 何故話してしまったのか、それは酔った勢いなのかもしれないし、心が痛かったからなのかもしれなくて、痛みを吐露せずにはいられなかったのかもしれない。自分でも驚くほどに、気が付いた時にはペラペラペラペラと上下の唇と舌がリズム運動をしていて、聞くに堪えないであろう言葉達が綺麗に列を成していた。

 

 そんなこと言っても、相手方を困らせるだけだ。わかってる、理解してる、それでも一度漏れ出た感情は止まることを知らない。「大丈夫だよ」って言ってもらいたかった、その上でもう自分の存在を認めてほしかった。そんなアホみたいな承認欲に理性を飲み込まれて、時が経てばその姿は激しい後悔へと変貌する。

 

 あぁ、どうしよう。何してるんだろうわたし。迷惑をかけてしまってごめんなさい。自分のことを並べ立て相手にぶつけてしまった後悔が頭部を覆っている。人様に迷惑をかけてはいけない、謝らないと、ごめんなさいを言わないといけない。そんな強迫観念は幼少期の頃から変わらないでいる。

 

 自分のことは自分の中で消化する方が私には適していると思っていて、これまでずっとそうやって生きてきた。本当の想いは、自分の中で徐々に理解を深めていけばいい。それでよかったと思っていたし、そう在ることを私自身が望んでいた。誰も好き好んで相手の渦巻いた感情を聞きたいとは思わないでしょう。他人の前では、適当にヘラヘラと笑みを浮かべるピエロであればいい。そのペルソナを装着する時には、自分の感情は一時封鎖してしまって、ジョークを織り交ぜながら下らない戯言を成立させていればいい。その方が楽しいだろうし、何よりも相手に迷惑をかけないで済むから。

 

 

 それでも、時折こういう風に感情を露呈させてしまうことがあって。そういう時は大抵の場合、希死念慮が強まっている時、そしてアルコールに脳味噌を犯されている時。こういう時にお酒を飲んじゃいけないと理性は言うのだけれど、そんな理性をぶっ壊す為にアルコールを流し込む自分がいる。どちらも自分で、それこそが自分でもあった。もうどうしようもなかったのだろう。苦しくて、その何もかもを嘔吐したかった。心が弱くなると、ペルソナがひび割れる。その隙間から覗く表情はこれっぽちも笑っていなくて、その瞬間にわたしはピエロを消失する。

 

 すべてを自分の中だけで抱え込んでしまうと、その重みで心が潰れてしまう。だからといって誰かに想いを伝えると、迷惑をかけてしまうから罪悪が生まれる。それが認知の歪みだということ、それを知っても尚、歪みを正せずにいること。それならばよかった、もう潰れてしまえばいいと割り切れるから。会いたい人がいる、でも会えないままでいる。会いたいと思うのは、安心したいから、まだ生きててもいいんだと思いたかったから。そんな自分本位を振りかざしてしまうぐらいなら、会えないままで良かったのかもしれない。いま会ってしまうと、また感情を露呈させて迷惑をかけてしまいそうだから。それならば、誰にも迷惑をかけずに、自分の中だけで潰えてしまう方が幾らかマシに思えるから。

 

 

 そうやって、今日もアルコールに手を伸ばす

 何も感じない為に、痛みを忘れる為に。