[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0206 わかっているけど

 

 今、物凄く甘いものが食べたい。

 

 たまにそんな気分になる時があって、これまでの経験則から言うと、そういう時は疲れている場合が多い。本当に必要なのは甘い物ではなく栄養価の高い食材と充分な休息なんだろうけど、わたしがそんなお利口さんでいられる訳もなく、欲望のままに糖分を胃に流し込む獣と化す。

 

 晩御飯はミスタードーナツを大量に拵えた。ジャックダニエルをオンザロックで添えて(ダブル)。長蛇の列に並んだ甲斐があった、一口目から脳味噌が爆発しそうなぐらいに甘い。一口、また一口と進めるごとに粉塗れになる口元と指先が愛おしい。宇宙さながらの甘さ達をジャックダニエルが搔っ攫う。疑似的でも構わない、幸福を錯覚する事の何が悪い?。際限なく溢れ出るドーパミンを前にして頭中に浮かぶのは、好きな人を想いながら自慰に励む誰とも知らない青年の後ろ姿だった。

 

 きっと早死にする、それでもいいかと開き直る。血糖値の限界急上昇を程良い酩酊が優しく包み込む。歯磨きを済ませたわたしは気絶するかのように眠った。たったそれだけのことで愛されている気分になる。夢の中では過去の登場人物がいつまでもあの日のまま蠢いていて、またこれかとウンザリしてしまう。それでも夢想を生きる自分自身は楽しそうに笑っていて、もうこのままでもいいんじゃないかと我に返ることを何度も忘れそうになる。

 

 無性に甘いものが食べたい時は、愛されたい時なのかもしれない。ただ単純に温もりを感じたい時なのかもしれない。抱擁されたい、認められたい、褒められたい、怒られたい。そんな愛の欲求をあるがままに現実へ露呈させることは憚られるから、その空白を埋めるために脳が心が糖分を欲しているんだと思う。だから、これは愛に飢えているからこその疲労感であって、そもそも満たされていれば暴食に走ることもなく、笑顔で健康で温かく生きていけるから、近年孤独による健康被害が重要視されているのも腑に落ちる気がする。なんて、自分本位でしかない意味不明な考察をしてみたりして糖分に凌辱された頭の中を落ち着けようとするのだけれど、唯々虚しさが増すばかりであった。

 

 典型的なアダルトチルドレン、そりゃあキッズは甘いものが好きでしょう。「ここぞとばかりの甘い夢はいかが?」ピエロが口角を限界まで上げながら私に媚びへつらう。叶うのならば、現実の中で生きたかった。でもね、前項で述べた通り、決して祈りは叶わない。祈りを現実にする為の努力を怠るというならば、現実の上を歩く資格は与えられない。だってそうでしょう、疲れているのだから。努力なんてものは体力とトレードオフの関係にある。だからわたしは資格を失った。もう何もかもがどうでもよかった。それでもね、この甘いドーナツをいつか誰かと一緒に分け合えたら、どうしてもそんなことを考えてしまうんだよ。笑いながら甘さを共有し合えたら、そう願っている私がいるから困っちゃうな。そんなはずないのにね、叶うはずないのにね、って重い足枷を施しているのは、他の誰でもない自分自身なのだけど。そういうことを全て理解した上で、やっぱりピエロに向かっている自分がいて、「もうこのままでもいいかもなぁ」なんて甘い戯言を空に吐き出しているよ。

 

 

 よく頑張ったね、