[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0207 過不足の無さ、響く雨音

 

 昨日はストロングゼロのダブルオレンジ味350mlを飲み干して、ほろ酔い気分で煌びやかな繁華街を散歩していた。見渡す限りの人、人、人が楽しそうにノロノロと蛇行運転をしている。とびきりのお洒落に身を包みながら、ああだこうだ言いながら、時には独り言をブツブツと呟きながら、たくさんの人が歩いている。

 

 普段なら寒気がするような人混みでさえも、アルコールが状況を大幅に緩和してくれる。寧ろ人混みを愉快に感じるぐらいの勢いで、軽やかな一歩を繰り出している私が好きだ。あの瞬間あの場所にいた自分自身を、間違いなく私は愛していた。この世界から「どうか、ご自愛下さい」という日本語が消滅しても全く支障がないくらいには、あの時のわたしは大丈夫だった。

 

 このまま居酒屋に寄って飲んで帰っちゃおう。そう意気込んだのはいいものの、どこの店にも待ち時間が発生していて、待たなくても入店できる居酒屋は悉く自分の好みではなかった。案外わたしってミーハーなのかしら、なんてことを思いながら歩いていると一滴、また一滴と雨が降り出し、泣く泣く帰路を歩むことになった。

 

 その道中に鎮座していたとあるキャラクターショップに吸い込まれてしまって、気が付けば商品をいくつか手にしていて、気が付けばレジで電子決済を完了させていた。何故だろう、欲しかったのだろうかと考えるも自分は全く興味が無いキャラクターであって、自宅にキャラグッズがあることに対する違和感だけを獲得していた。

 

「そういえば、以前にあの子が好きって言ってたっけ」

 

 そうだ、知人に手渡したかったのだと思い出す。消費する予定だった居酒屋代をキャラグッズに全額ビットしていた私は、その人が好きな物をあげたかったんだ。喜んでもらえると嬉しいし、ちょっと微妙な反応でもそれはそれで面白い。必要なければ処分してもらって構わなくて、”プレゼントをする”という行為がしたかった。

 

 思うに、私としては必要な物はもう全て揃っていて、現在手にしている物だけでしばらくの間は過ごしていける。自分として必要のない物は持ちたくなくて、だからこそ何かを新規購入する際には物凄く繊細な審査が入る。機能性やデザインが完璧だとしても、自分の直感がその物体を拒否する場合もあって、中々生活の中に馴染む物が見つからない。その上で無理して増やす必要もないと思っていて、結果的に物欲が消えていく。

 

 そんな中で溢れ出た”プレゼントをしたい”という欲求は、本来自分が持ち合わせる予定だった物欲を、他人様を通して解消しようとしているだけなのかもしれない。少しお金を使いたかったのかもしれないし、買い物をする喜びや感覚を味わいたかったのかもしれない。つまりこの感情は、完全なる自分のエゴだ。

 

 ”相手の喜ぶ顔が見たい”という気持ちが無い訳ではない、勿論お喜びいただければ満たされる心の一部分もあるだろう。それでも、それよりも、ただ物質を差し上げたい。誰でも言い訳じゃない、好きな人だったり、飲みにいきたいなと思える人、温かい人に受け取ってもらいたい。自分のエゴであるからして、拒絶されても構わない。ただの身勝手だから、感情の押し売りだから。相手方の反応を何もかも受け入れて、咀嚼して、飲み込んで、それが少しでも心の養分になってくれればいいのだけれどね。

 

 

 そんなことを考えながら、思い出したようにギフトラッピングを施している休日の午後、雨模様でした。