[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0238 梅雨の夜更け

 

 ジメジメするね、そう言いながら抱きついてくる君を引き剝がすことは難しかった。夏の影がちらほら見え隠れしていて、体温が急上昇する予感がしてる。いつまで経っても夏生まれなことには変わりがないから、きっといつまでも私は夏を避けながら生きていくんだろうなと思う。忘れ去られたパンデミックを過去の中に閉じ込めるようにして、たくさんの人に会う、色んな場所に行って、美味しい物を食べる。きっと今年の夏は素晴らしいに違いないのに、その違いの無さにうんざりしている自分がいて、そういう所が湿度の高い雨に似ている。見たいものを見るよりも、見たくないものを見ないで済むような、そんな優しさにずっと恵まれていたい。ずっとその中で踊っていたい。殻の中に閉じこもっていても、生きているわたし達は素晴らしくて、それでもちょっぴり空が泣いている気がするよ。同情、一番されたくないこと。また少しだけ世界のことが苦手になった。せめて君だけは笑っていておくれよ、せめて君だけは。それさえも叶わないというならば、代わりにわたしが笑ってあげる。もはや渇いた笑いしか出てこないけれど、そこは雨で潤いを満たしてほしいというか、そっと手を繋いでいてほしい。悲しいね、世界に期待しそうになってる。何かが起こりそうな予感ばかりが、私の中で渦を巻く。刺激的なことよりも、雨傘の中で安全に包まれていたい。願わくばあなたの側で、一つの傘を共有してみたい。そんな梅雨なら大歓迎だったのに、今日も満員電車が人々を揺らしている。