[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0347 だから知りたいと思うんだ

 

 あなたが一体なにを考えているかなんて、あなた以外のだれにも読み取ることできない。ちょっとした表情や仕草から「もしかするとこういうこと考えてるのかしら」と予測することはできたとしても、それが寸分違わぬ事実だとは限らない。わたしたち、自分のこと以外なんにも知らないね。もはや自分のことさえも完全に理解するのはむずかしくて、他人から指摘されて気付くこと、たくさんある。鏡を使わずに自分の表情を見ることできなくて、相手の表情は間違いなくこの瞳でとらえているのに、その実はなんにもわかっていない。そのすべてが推察でしかなく、そのすべてが、自分が勝手に抱いた相手への印象に過ぎない。この人はこういう人、あの人はああいう人、好き勝手に枠にはめこんで頭のなかでせっせと仕分け。そうすることで相手のこと知った気になって、受け入れた気になって、いくら抱きしめても、夜を明かそうとも、お互いのこと、これまでのことすべて出し切っても、今この瞬間、わたしとあなた、なんにもなんにも知らないままでいる。

 

 歯が痛くて表情が歪む、「どこか苦しいの?」と心配してくれるあなた、それが精一杯の優しさで、言葉にしないと歯が痛いだなんて伝わるはずない、他人。苦しんでいる人、泣いている人、なにがあなたをそうさせているのか、わたしがその理由を考えるとき、そのすべてが邪推となってわたしの身からでた失礼があなたをすっぽりと覆いこむ。「全然、大丈夫」痛くて苦しいのに心配かけないようにひねり出す限界の強がり、大丈夫って口に出すひと、大丈夫じゃないことがバレているよ。そんなに強がらなくていいのに、もっと柔らかい部分さらけ出していいのに。それでもわたしは、それ以上なにも聞くことができなかった。大丈夫、これって大きな境界線。ビシッとこれ以上入ってこないでと言われているみたいですこし悲しい、仕方がないことなんだけども。他の誰かの前では裸になれているのだろうか、ありのままの自分、さらけ出せているのだろうか。そうだったらいい、そうだったらいいんだけど。

 

 言葉にしても伝わりきらないことが大半で、だからあなたのこと知りたいと思うんだ。たぶん、わたしのことも上手く伝わってない、伝えることはそもそもが技術、まだまだ力不足で物足りない。もっともっと知りたいと思うし、もっと綺麗に伝えたいと思ってる、夜空、星がいくつも輝くなかで、わたしたち、お互いのことばっかり話してる、これまでのこと、現在のこと、これからのこと、時間の流れなんて忘れてしまって、ずっとずっと話している、いつまでも回れ惑星、いつまでも夜のなかにいて、そこにあるのはあなたとわたしと星空だけ、話せば話すほどあなたのこと知った気になってる、でもそれはほんの一部分で、夜空に星がいくつ浮かんでいるのか、数え切れないほどの星、それと同じぐらいあるたくさんのあなたを見つけたい、あなたにもわたしのこと見つけてほしい、知ってほしい、知りたい、うれしい、苦しい、嬉しい。気がつけば夜が明けていて、星の声はもう聞こえなくなっていた。どれぐらいの時間が流れたのだろう、そこにいたあなたはいなくなって、わたしもそのうち消えてしまう。結局、なにもわからなかった、なにもわからないままだった。でもその瞬間は間違いなく、一番の幸せものだったよ、わたし。