[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0382 ワンコール、またね

 

 誰とも話すことがなかった一日、ふと思い立ちスマートフォンを手に取った。緑の通話ボタンをワンタップ、トゥルルトゥルルル鳴り響くばかりでじれったい。相手の画面に不在着信を残すことしかできなくて、ポツンと取り残された気持ちになる、身勝手。普段はずっとサイレント、けれども今日だけはこっそり解除、せめてもの折り返しを降る雨のなか期待してる。

 

 久しぶりに聞こえた着信音、あわててスマフォに駆け寄り動転。互いに交わされる「もしもし」が耳に心地よかった。元気にしてるかなと思って、体調はどうかしらと思って、「大丈夫?」。思ったより元気な声で一安心、実は大丈夫でないのはわたしの方で、微かな大丈夫を得るために、あなたの声が聞きたかった。なんて言うことできなくて、よかったねぇを繰り返すことしかできんかった、けどやっぱり。すくすく心が落ち着いてしまう、揺り籠に身をゆだねる赤子のように、抵抗することなく鼓膜がその両手を大きく広げて。

 

 ほんの数分間、けれどもわたしの一日で最も長い時間、そう、そうなの、そうなのね、なにを言えばよろしいのやら、頭がやんわりと語彙を制す。「声がきけてよかった」と伝えることが精一杯、喉が爆発してしまいそう、もう。「会いたい」と祈るように、「もうわたしは駄目かもしれない」と絞り出すように、世界は胸のうちにある様々なもの、すんなり吐き出すこと認めてくれない。段々と自分が情けなくなってくるね、甘い声優しい言葉を浴びていると。そっちに行きたい、愛されることを願ってしまう、空にはたくさんの星屑が散らばって、わたしたちのこと照らしてる。このままだと夜のなかに吸い込まれてしまいそう、情けなさがバレてしまいそうな気がして、「それじゃあまたね、おやすみなさい」。