[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0429 春を摘む者

 

 たとえば、親の愛が絶対的なものだったとして、それに裏切られた少年少女は何を拠り所にして生きていればよかったのだろう。信じたいものを信じながら生きることが人間の定めならば、いっそのこと人間なんてやめてしまいたかった。ただ愛されたかった、それだけのことがどうしてこんなにも難しい? いつまで経っても春はわたしを呼ぼうとはしない。あなたは春を見つけようともしない。他人の人生が羨ましく思えるとき、春は空に花弁を散らす。世界がほんの少しだけ与えてくれた、小さな芽、僅かな愛、もう帰れないはずの大切な居場所。人肌の上をすり抜ける大切なものは、この手でつかむことなどできなかった。さようなら、あと何度いえば済むのか別れと哀愁。その身を焼きながら春を摘む、あなたは遠くの方で笑ってる。素敵だね。灰。