[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0458 深く死んで、

 

 海の底に沈んでいく、そんなイメージの中を生きている。水面に差し込む陽の光、とってもとても眩しくて、水の中ぐらいがちょうどよかった。生温い水温に身を包まれ、誰からも見つからないまま、ひっそりと、静かに。昨日が今日であればよかった、今日が明日であれば、過去が未来であれば、よかったのに。ありもしない幻想ばかりが頭の中に浮かんでは消えて、現在を直視することが難しかった。わたしが自分らしさを取り戻すにつれて、世界がわたしを認識しなくなって、そんなのってもう、つまるところそれは、「わたし」って一体なんなのだ? わたしらしさ、あなたらしさ、自分らしさ、なんだか自由で魅力的な感じがするけれど、その「らしさ」に縛られて身動きが取れなくなってしまうのでは、本末転倒な気がするのだよ。重い、重力が、重い。頭痛が痛い、みたいな人生はもうわたしには不可能に思えた。今日を生きているのもわたし、未来のなかで死んでいくのもわたし。ただそれだけでいいんじゃないか。善悪とか美醜とか愛とか鬱とか、そのすべてが傲慢にわたしを押しつぶそうと試みる。もう疲れちゃって、考えることもできなくなって、大いなる海に身を投げ出した。最果て、波に揉まれながら沈んでいく。人間は水に浮くように出来てるなんて大嘘じゃないか。ゆっくり、深く、沈んでいるね。生物たちはわたしに干渉しない、だって言葉が通じないんだもの。あぁ、そうか、だからわたしは、花が好きだと思ったんだ。花に囲まれて過ごしてみたいと、心の奥底で願っていたんだ。今さら気付いてももう遅いね、でもそれが、わたしにとっての自分らしさだったんだ。

 

 海底に咲く花、空気がいつまでも揺れている