[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.027 夏の沈む音が聞こえる

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 ごきげんよう、久方振りでございます。しばらく更新が空いてしまいました。それなりに元気で過ごしていました、それなりに。少しばかりの郷愁に身体を支配されてしまう、そんな日が一年に一度わたしに訪れます。それは姉の命日です。その日は死について、そして生きるということについて、いつもよりも深く考えさせられる。そんなことをこの場所で書いてはいけないと叱咤されるかもしれないけれど、何故だろう、書かなければならない気がするんです。”言葉としてこの現実に表出させなければ”、そんな使命感に駆られた為、今回は当ブログに自身の心を綴ることにしました。安心してください、決して暗い内容ではありませんので。気楽に肩の力を抜きながら、書き綴る所存でございます。

 

 姉といっても、わたしは彼女に会ったことがありません。なぜなら、彼女はわたしが産まれる前に亡くなっているからです。正確にいえば、彼女が亡くなったからこそ私がこの世に産まれ落ちました。姉が生きていれば、わたしは今ここに存在していません。この言葉も、写真も、何もかもが存在していませんでした。なんだかとても不思議な感じがしますね。生前の写真を何枚か拝見したことがあるけれど、とても色白で、赤子ながらに美人だったと記憶しています。わからない、もしかするとシスターコンプレックス故に記憶を改竄しているだけかもしれないけれど、写真に納まる姉の姿は、わたしの眼にはとても美しく映りました。それでも、そんな美しい彼女はもうこの世に存在していない。その圧倒的事実が、彼女の美しさをより際立たせることになるのです。

 

 「もしも○○だったら」といった空想論は嫌いだけれど、今日だけはそんなわたしを許して欲しい。もしも彼女が生きていたならば、さぞ美しい乙女となっていたことでしょう。散々馬鹿な事をしでかして、姉ちゃんに怒られたい、そして最後には呆れられたい。時には姉弟喧嘩なんて繰り広げてさ、「あいつ、ほんまうざいわ」とかグチグチ言い合いたい。一緒に居酒屋で飲んでベロベロに酔っぱらって、駄目男エピソードを延々と聞かされたい。。。等々考えるのだけれど、前述したように、そもそも姉が生きていれば私は存在しない訳で、姉が生きていないからこそ、こうやって私が存在している。端から私たちは相容れない存在なのだ。そう理解っていても、それでもこうやって想像してしまうんです。会ったことがないからこそ、わたしは彼女の存在を美化してしまうのでしょうか。「いつまでも美しいままの姉でいてくれるのなら、決して会うことのない関係性で良かった。」とは、思うことが出来ません。せめて夢でもいいから会いにきてくれればいいのに。わたしは産まれてから一度たりとも、姉の夢を見たことがない、夢に姉が登場したことがありません。永遠の片想いみたいで、なんだかとてもじれったいなと思うんですよ。

 

 この世からいなくなって数十年が経過するにも関わらず、いまも皆から想われている存在。想い続ける存在は勿論のこと、想われ続ける存在というのは素晴らしいものです。かといって、わたしがそのような存在になりたいかと問われると、素直に肯くことは出来ません。わたしがこの世からいなくなった際には、忘れてほしい。頭の中から私の存在を消してほしい、そのように思っています。そんな考えを持っているからこそ、私は愛を恐れているのかもしれない。にも関わらず、文章を書いているというのはとても矛盾しているように思われる。その人が紡いだ言葉は、その人がいなくなった後も残り続けます。実体が消失した後も言葉は其処に佇み続ける。私が消えてしまっても、今日まで書き続けた文章はこの場所に残留します。それなのに「忘れてほしい」だなんてほざきやがる。皆さんお忘れでしょうか、人間は矛盾を愛する生き物ですよ。例にも漏れず、わたしもその生き物の一部なのです。

 

 時折、死にたいなと思う瞬間がわたしにはあります。おそらく現代社会を生きる多くの人間が体感済みのことでしょう。そんな時、ふと姉の存在が頭の中に浮かび上がることがあります。浮かび上がった彼女はわたしに対して何を言うでもなく、ただそこに佇んでいるだけで。だけれども、わたしはそれで構わない。彼女の分も長生きしようとか、懸命に日々を生きよう、なんてことを私は決して思わない。それは姉に対して失礼に値するのではないか。彼女には彼女の生があって、早急に死が訪れた。わたしにはわたしの生があり、まだ来訪していないだけの死と見つめ合っている。訪れた死と引き換えに、わたしは生を享受している。ただそれだけのことで、そこにはどんな意味合いも含まれていない。そのように私は解釈しています。

 

 わたしにとって、あなたは死の象徴であるのです。駄目な弟でごめんなさいね、そちらへ足を踏み入れた際にはたくさん叱って下さいね。わたしは姉ちゃんのことが好きです。だからこそ、ふと寂しくなる瞬間があります。会ったことがないのに不思議ですよね。いつまでも綺麗なままで、どうかお元気でお過ごしください。