[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0121 眠りを求めて

 

 ここ最近、早寝早起きの生活リズムが形成されている。とくに意識していた訳ではなくて、自然と流れ着いてしまった感じ。やりたいことをやり抜く為には、こうするしかなかった。

 

 以前は寝る直前まで酒を飲んでいて、[AM 6:00]を過ぎたぐらいに起床していた。休日は昼過ぎまで寝ていて、マクドナルドとアルコールを貪りながらYOUTUBEをただ眺めるだけ、そんな繰り返しの毎日だった。寝ても覚めてもストロングゼロのことを、酒を飲むことばかりを考えていた。もしかすると、軽度のアルコール中毒だったのかもしれない。

 

 そんな自分にも目標が出来て、この退廃的な日常を脱出する必要があった。アルコールを断つことは微塵も考えつかなかったので、一先ずアルコールが抜けている状態の朝の過ごし方を変えることにした。これまでは起きてすぐに珈琲を淹れ、それを飲みながらネットサーフィンをすることが日課になっていた。その時間が一日の中で何よりも至福の時間だったし、リラックス出来る時間でもあった。けれど、朝一番から頭の中に不必要な情報がわんさか流れ込んでくる感覚があって、時にはストレスや不安を感じることもあった。

 

 インターネットを閲覧しなくたって、私たちの生活には何ら支障がないことは明らかだった。だからこそ、至福の時間を破壊した。朝一番、心身共に快活な状態で一番重要な課題に取り組むようになった。思っていたよりも時間が足りなかったから、もう少し早く起きるように工夫した。気がつけば、[AM 5:30]に起床するようになっていた。早く起きるようになると、自然と寝る時間も早くなった。[PM 22:30]に就寝、そうなるとお酒を飲まなくなった、というよりも時間的な問題で飲めなくなった。

 

 早く寝て、早く起きる、時間の使い方が180度変化して、お酒を飲む量も減った。これは自分でも不思議なんだけど、食事に対する考え方も変わってきた。これまで食事は生きる為に必要な単なる栄養摂取だったんだけど、最近は食物繊維やビタミン等、豊富な栄養素を体内へ取り入れたいと考えるようになった。自分は自他共に認める大食漢なんだけど、暴食することがほとんど無くなった。腹八分目が一番心地良いし、何だったら空腹でいる時間が好きになった。それと同時に運動をする時間も増えた。脳味噌にアクセルがかかる感覚、無心で目の前のことに取り組む一種の儀式的感覚が、とても心地好い。

 

 いざ文字にしてみると、”意識高い系バカ”みたいな感じになって恥ずかしさ極まる。それでも、私はマクドナルドが好きだし、酒が大好きだし、いつだって居酒屋に行きたいと思っている。何事にも緩急が大切で、ストイックな自分とめちゃめちゃ適当な自分を上手く混ぜ合わせることが理想的だと考えている。

 

 

 そんな生活が一か月ほど続いたある日、急に眠れなくなった。特に不安なことがある訳でもなく、お酒を飲んでもいないし、スマホやPCを直前まで眺めていた訳でもない。思い当たる節はどこにも存在しない。これまで睡眠に関して苦労したことがほとんど無かった為に、ものすごく焦った。ベッドに入ってから寝付くまでに1~2時間ぐらいかかって、やっと寝れたと思ったら中途覚醒を何度も繰り返す。勿論、翌日は寝不足気味で頭が回らない。体感的に、角ハイボール3杯程度の酩酊に似た浮遊感に襲われる。そんな日が数日続いた。睡眠効率が悪いのかしら、寝る前の行動が原因?、そもそも眠いってどんな感覚だっけ?、これまでどうやって眠っていたっけ?。考えれば考えるほどわからなくなって、もっと眠れなくなった。「早く眠らなければ”ならない”」という一種の強迫観念に支配されていた。

 

 「いや、真面目すぎるやろ。」

 「生き辛いやろ、もっと気楽にいこ」

 「眠れんのやったら寝んかったらいい」

 

 心の内に在る楽観的な自分が無責任に言う。明日も早く起きるのだから、早く寝ないと、この時間に寝ないと、明日の自分が上手く回らないのに。馬鹿か、頭が回らないと文章書けないだろ、それが私たちの最優先事項だろ、だから俺たちは眠る必要があるんだよ。

 

 「うっさい、最悪明日は会社休んだらええ」

 「一日あれば書けるやろ、ゆっくり眠れるやろ」

 「明日のことは明日考えろ、今はゆっくりと睡魔を待とうや」

 「とりあえず、眠くなるまでベッドには入ったらあかん」

 

 いや、めっちゃ喋るやん。逞しすぎるやろ、お前が主人格やってくれや頼むわ。

 

 なんて、一人劇場を繰り広げていると、もう真面目に考えている自分が馬鹿らしくなってきた。自分自身に励まされている自分、それを客観的に眺めているもう一人の自分、その自分を眺めている、、、なんてことが続くと頭がおかしくなりそうだ。というか、睡眠不足が影響して既におかしくなっていたのかもしれない。

 

 わたしは眠りを諦めた、もうどうにでもなれと思うことにした。眠れないものは眠れない、"寧ろこれはゆっくり本を読むチャンスだ”と捉え方を転換した。

 

 本を数ページ捲ったところで、違和感が脳を襲った。やがて、違和感は実体を持ち、眠りへ誘うように手招きをしている。ベッドに滑り込んだ私は、そのまま深い眠りに就いていた。

 

 きっと、これからも必要に応じて変わっていく、変わっていけると信じている。その最中で見えない石ころに躓くこともあるだろう。そんな時には、内なる自分を頼ることも悪くはない。心が発する声を、自身の無意識が掻き消している。だからこそ、意識的に耳を傾ける時があってもいいのではないか。そうやって、たまには自分自身とゆっくり会話をしてみること。そこにはまだ自分が知ることのない、新たな自分自身が眠っていたりするものだから。

 

 

 「今日は思いっきり酒飲んで、ゆっくりしよな」