[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0345 急かすな時刻表

 

 駅のホーム、トゥールートゥールートゥールールー、発車のメロディが鳴る。走る人々が視界を横切る、微動だにしない、私。駆け込み乗車は間違いなく身体に悪い、それがどんな状況であれ歩みの速度は変わらない。目の前で仰々しく出発する電車、見送ればいいのだメトロ。急がないことが大事、きっと次の便がある、時には見送ることも大事、人生。あまりにも急ぎすぎて何とかセーフ、電車内でもしばらくゼーハー何事もなかったかのような顔してる。その姿がちょっぴりおかしくって、そんなに急いでどこにいくの? 大好きなひとにでも会いにいくの? それならば綺麗、だけど美しくないよ。

 

 久しぶりにパツパツの満員電車に乗った。いつもとちょっと時間がずれ込むだけで、こんなにも人間の密度が変わるのね。ひしめき合う衣服が擦れるたびに破壊されるパーソナルスペース。臭い。腐敗臭とか加齢臭とかじゃなくて、人間臭い。車内に設置されているプラズマクラスターの存在を疑った。やっぱり人間、獣だね。知性が高いだけで高貴であるかのように生きてるけど、ナチュラルに動物じゃんか。それってわたしも。眼前のスーツ姿はイライラしていて、なぜかこちらを一瞥する。いや、この場合、満員電車の場合、誰が悪いでもなく、同じ車両に乗り合わせた人間の合同作業でこうなってるんでしょう。どうしてわたしを睨む? カバン持ってないから、寧ろコンパクトな方だと思うんだけどな。満員電車に優しい人間だと思うんだけどな。ギュウギュウギュウ、たった一駅の我慢、永遠に近い数分間。やったことないけど、ウォール・オブ・デスってこんな感じ? 車内にいる人間とホームにいる人間のぶつかり合い、乱闘。こういうの毎日経験してる人、それだけで一日分の体力が消え去りそう。運動とかしなくても、なんか知らんうちにムッキムキになってそう。なんてどこまでいっても他人事のように考えてしまうのは、もうこのような状況に心身を置かないと決めたからなのであった。こんなの嫌だ、引っ越しましょ。

 

 ずっと余裕で楽勝で、口笛でも吹きながら生きていたいけど、たまにはこういう経験するのも悪くない。いつもの日常が、静かで、とても豊かで、それってつまり限りなく富に近い。ストレスが無さすぎてもよろしくないと言われるぐらいで、時折心に負荷をかけるぐらいがちょうどいいのかもしれないな...... なんていう西向きの解釈、眩しすぎて直視できない。電車のなかで余裕でいられないのは、楽勝でないのは、口笛を吹けないのは、一体どうしてなのだろう。気づかないうちに心の尺度が変わってしまう、雑音と臭気に吹き飛ばされる余裕、アナウンスにかき消される口笛、いとも簡単に敗北。あと何回乗らなければいけんのだろうか、もう何回も乗りたくないのです。歩いていたい、マイペースを遵守しながら、今日の上を歩いていたい。静かに、だれにも気づかれないほど、静寂に。