[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0393 原点回帰

 

 道に迷ったある日のこと。最短ルートでたどり着く為にはどうすればいいか、時間効率だけを追い求めた結果が大きな壁、行き止まり。困ったどうしよう、考えても目の前にあるのは平然とした仏頂面、景色がその形を変えることはなかった。こうなった時にはいくら考えても無駄、その足を動かすことでしか現状はなにひとつ解決しない。

 

「来た道を戻りなさい」

 

 自身の歩みを一歩ずつ辿る、これまで歩いてきた道を、一度みた景色を反対視点から眺めてみる。どこまでも遠くへ来てしまった気がしていたけど、案外すんなり元の分岐点まで逆戻り。体力さえあれば、来た道を引き返すことはいとも簡単なのだった。そうして前回とは違う枝分かれを選択する。新しい道のりへの一歩を踏み出す。

 

 

 正しいとか間違いとか、成功とか失敗とか、論理で説明できるはずなんてなかった。どの道を進んでも、それがあなたにとっての正解なのよ。少しずつ、ほんの少しずつ過去を取り戻している。それはいまの自分が必要としているからであって、来た道を戻ることが自然の流れでもあった。随分と長いあいだ、行き止まりの前で泣き続けた。それが時間の無駄だったかと言われればそんなことはなくて、その中で得たたくさんの気付き、これからも大事に抱きしめながら歩いていく。

 

 なにかが変わった、日々を意識するなかで「昔に戻ったみたい」と思うことが増えた。日常に少しずつ変化を組み込むなかで、気が付けば過去の感覚に身を包まれている時がある。失った自分自身、抑圧され続けてきた感情、どうしてかわからないけど、現在が愛おしくて堪らないのだ。「これまでたくさん傷つけてごめんね」「なんとか生きていてくれてありがとう」伝える度に、小さな子供が笑顔を浮かべている。ずっと見ないフリをしていたけれど、これからはたくさんの温もりを共有したい。そう、この感情は一つの分岐点、やっとここまで戻ってきたのだ。先に進むことばかりを考えて、苦しみから逃げることばかりを考えて、愛されることばかりを考えて、考えて、考えて。大きな壁の前で延々と唸っていた。過去に戻ることはできないけれど、過去を取り戻すことはできる。過去の自分を、笑えていたあの時の自分を、現在のなかに落とし込むことはできる。原点回帰、それはあまりにも美しく、脆い。「あの頃はよかった」の『あの頃』に触れることはできないけれど、『よかった自分』で今日を生きることはできる。ずっと逃げ続けた過去とトラウマ、いまこの瞬間から少しずつ向き合うことはできる。わたしは素敵でありたい。このまま一人で死ぬなんて、とってもとても寂しいじゃないか。素直にそう思えること、言葉にできるようになったこと、自分を大切に思えるようになったこと。変わっていく部分、変わらない部分、どっちも同じぐらい抱きしめてあげて、いまこの瞬間、わたしは微笑を浮かべてる。

 

 

 白い空間でポツンと一人、

 ずっと幼子は泣いている

 もうあなたは一人ではないよ、って

 わたしがずっと側にいるよ、って

 そんな優しい言葉がたまらなく欲しかった

 

 もう大丈夫、あなたのこと忘れたりしない

 失った過去を拾い集めていこうね

 たくさんの綺麗なものを見に行こうね

 寒空のした、手を繋ぐ二人は温かい