[No.000]

日記以上、遺書未満。

N.0402 虹彩異色症

 

 季節の変わり目というやつはどこまでも現代人を苦しめていて、もれなくわたしもその中の一人であった。

 

 上手く眠れない、自律神経がぶっ壊れているのか体温調節が難しい。眠りに落ち着く、大量の汗が睡眠の邪魔をする。当の本人がドン引きするほどの発汗、ほんと全身がビッショリそれはまるでお風呂上りのよう。ひんやりとした感覚が気持ち悪く、嗚呼ついに身体までおかしくなったのかと笑えてくる。半袖半ズボンで眠っても、素肌がベッドシーツに張り付くだけで、なんにもこれっぽちも変わらない。

 

 たまにあるんですよね、やっぱり季節の変わり目に。最近ちょっと活動的、お酒もたくさん飲んでいたから、身体が悲鳴を上げているのかしら。ごめんね体躯。自律神経を可愛がっても時すでに遅し、自己管理の儚さに直面する。破滅的に生きるのはよくないね、生産性を追い求めることも同じぐらいよろしくない。のほほんと吞気に生きることを自分が許さなくて、今日一日家で過ごしているだけで、身体がうずうずして堪らない。どうしてなのかしらね、躁なのかしら。あんまり眠りたくはないのよ。汗でひんやり冷たいから、一人だと意味もなく寂しいから。

 

 こんな時、祖父がよく歌ってくれた子守歌を思い出す。片目が水色だった祖父、親指が短かった祖父、常にサングラスをかけていた祖父。故人を想う時に蘇る思い出は、優しい表情ばかりを浮かべてどこか悲しい。晩年は喧嘩ばかりしてぞんざいに接していたけれど、そのことを現在のわたしは後悔しているよ。「変わってるね」「おかしいね」と他人から指摘されるわたしが、心の底から「変わり過ぎている」と思っていた祖父。変わっていてくれてありがとう。ずっと鬱だったのかな、わたしたちといても孤独だったのかな。最後に病院へお見舞いに行った時、手を握りながら「また来るね」と言ったきり、わたしはあなたを安心させるために嘘を吐きました。残酷ですよね、最低です。この歳になって、あなたの優しさに気づくことが出来ました。もう会うことは叶わないけれど、ずっとお酒を飲んでいたあなたのことを思い出しながら、わたしは今日も生きています。じいちゃん。

 

 最近過去のことばかりが頭に浮かぶ。そのほとんどが後悔ばかりで、さっぱり潔く生きてきたつもりだったけど、全然そんなことはなかったみたいだ。これも季節の変わり目が催す失楽園でしょうか。結構辛くてしんどいのだけれど、こんな時優しい誰かに頼ってしまえば、弱さの防波堤が崩壊する。だからせめて書くだけにとどめて、なんとか一人で耐え抜くのだ。誰にも頼らないことが格好良いことではない、寧ろ頼れないことは格好悪いことであるとは思っているのだけれど、そんな格好悪い自分のままで、これからを生きていくしかないのだから。甘えるな、罪と後悔と過去を背負いながら、これからも愉快に歩いていく。それしか笑える方法が見つからなかった。

 

 もう誰も子守歌など歌ってはくれない。そんな年齢ではない。人は見た目が9割なのだとすれば、わたしはどこからどう見ても大人の見た目をしているのだから。子守歌は赤子の専売特許、大人は現実と向き合い心を削るしかないのだろうか。見て見ぬフリをしてきた結果がこれである、現在である、わたしである、消えてしまいたいのだ。逃げて、逃げて、逃げて、有言不実行の結果が過去である。じいちゃん、一緒にワンカップを飲みたかったね。僕はお酒を飲めなかったけど、よく居酒屋に連れていってくれたね。じいちゃん、どうしてわたしはこうなってしまった。可愛がってくれてありがとう、約束を守れなくてごめんなさい。ずっと寂しかったのでしょうか、孤独のなかを生きていたのでしょうか。少なくとも、いまのわたしはとても寂しいです。やっぱり家族ですね。最近になって自分のなかにあなたの面影を感じるのです。やっぱり僕は、あなたに似ている。わたしはあなたで、あなたはわたし。どうして、どうして、繰り返して、生きて、眠れなくて、悲しいね、やっぱり。